Weingut Kröber
2023年8月16日(水)
今日は、アールを離れモーゼルに向かう。最初の目的地ウィニンゲンは、コブレンツに程近いモーゼル川下流域に位置する。アールヴァイラーからは、アウトバーンを使うと1時間弱の距離だ。ところで、ウィニンゲンは、我々が美味しいドイツワインを探す旅を始めた2019年の夏、初めて訪れた街だ。可愛らしい街並みで、ドイツ最古のワインフェスがある。前回は土砂降りだったけれど、今日は晴天。再訪を楽しみにしながら車を走らせる。いくつかの分岐点を慎重にクリアし、無事にアウトバーンを走り終えた。すこぶる順調。あとは一般道を南に行けば、すぐにウィニンゲンだ。程なく、見たことのある街並みが見えてきた。いや、懐かしい。ハーネン通りに入ると、すぐに白い可愛い建物があり、大樽の蓋を利用した標識に”Weingut Rüdiger Kröber”の文字が見えた。着いた着いた。呼び鈴を押すと、程なくお約束をしたFlorian Kröberさんが奥から現れた。「ようこそ」と笑顔で迎えてくれ、試飲スペースに案内してくれた。
Weingut Kröberは、Werner Kröberさんと奥様のErikaさんにより1956年に創業。当初は木樽の製造も行っていたが、ブドウ畑の購入とともに、事業はブドウ栽培中心になったとのこと。1991年、WernerさんとErikaさんは、息子の Rüdigerさんと奥様のUteさんに事業を引き継いだ。2人は、高品質畑の取得に努め、栽培面積は倍の7haになった。また、息子のFlorianさんは、ワイン栽培技術者としての訓練を積み、2009年から事業に参画。最新の栽培や醸造技術の導入を進めた。そして2021年、RüdigerさんとUteさんは、Florianさんと奥様のStephanieさんに事業を継承。3代目の当主となったFlorianさんは、奥様やご両親の力も借りて、これまで家族が積み上げてきたワイン作りの技を着実に進化させている。
さて、試飲。まずはベーシックなリースリングをお願いした。うーん、フレッシュな柑橘系のいい香り。レモン、ライム、青リンゴなど。飲んでみると、適度な酸が心地良く爽快感がある。「これは2022年のものだけど、暑い年でブドウの収穫には気を遣ったんだ」とFlorianさん。確かに、ドライな味わいと酸味、そして適切なアルコール度数を両立するのは、近年の暑さを考えると至難の業に違いない。
「次は、こちらのリースリングをどうぞ。粘板岩土壌のものだよ。これは2021年のもので、雨が多い年だったんだ」と、”von Schiefer”と名付けられたワインを注いでくれた。そうそう、2021年は大雨の年だ。アールだけでなく、モーゼル地方でも多くの洪水被害があった。これも柑橘系のいい香り。洋梨や桃の香りも。飲んでみると、透明感のある素直な味わい。果実の甘さを感じる。この味わいが酸味と相まってとても良いバランス。いや、美味しい。
次に注いでくれたのは”Steinig”(石のような)と名付けられたリースリング。完熟した柑橘系、桃、洋梨の香り。飲んでみると、とても円やかで優しい味わい。果実の甘さが酸味ととても良く調和している。そしてこれも透明感のあるクリアな味わい。「これは木樽で9ヶ月発酵と熟成をしているんだ。まだ若いけれど、2、3年後はもっと美味しくなると思うよ。どのワインも、本当は少し経ってから飲む方がいいと思うんだけれど、リリースしたらすぐにみんな買っていってしまうので、どうしたものかとも思うんだよね」
確かにー。ausDでも買ってきたワインは基本的に1年以内に飲んでしまう。これ、少し見直した方が良いかもしれない。
ここまで飲んできて、どのワインも、しっかりと酸味はあるのだが、殊更に酸を強調することなく、むしろマイルドな味わいになっていることに気付いた。
「酸の強さや強い果実味などを強調する醸造家も多いけれど、僕は敢えてマイルドなワイン作りを目指しているんだ。気に入ってもらえたなら嬉しいけどね」とFlorianさん。
「次に、上級畑の一つ、ウィニンガー・ウーレンのリースリングをどうぞ。この畑には3箇所の原産地呼称があって、基本的にはどれも粘板岩土壌だけど、それぞれに特徴があるんだ」と、Florianさんは岩石を机の上に出しながら説明してくれる。「まず、ブラウフュッサー・レイは柔らかく、青から濃い灰色の粘板岩。ラウバッハは化石含有率が8〜10%で、石灰分が多いんだよ。このためpHも高いんだ。そしてロート・レイは鉄分が多く含まれていて赤くなっているんだ。ヘマタイトの割合も高いんだよ」
なるほどー、これは興味深い。Florianさんは、最初のブラウフュッサー・レイを注いでくれる。うーん、これ香り豊か。熟した桃や柑橘類の香りに白い花の香り。スパイスのニュアンス。飲んでみると、果実の甘さを感じるも、酸と相まって爽快ですらある。そして何よりもクリアな透明感が印象的だ。そしてミネラル感を感じる。いや、美味しい。
次はラウバッハ。これも香り豊か。熟した果実の香りにハーブや白い花の香り。とても円やかな口当たり。完熟した果実味は骨格があり、また、ミネラル感を伴う深みのある味わい。そして長い余韻。「これは10年後でも美味しく飲めるよ」とFlorianさん。
そしてロート・レイ。おっ、これ明らかに特徴的な香り。熟した果実味に加え、スパイスやハーブの香りが強い。「土壌の特徴に加えて、澱の上で18ヶ月の長期熟成をしていることも関係していると思うよ」
飲んでみると、これも円やかな口当たり。甘さを感じる果実味は、香りと相まって多層的な味わい。これを酸がしっかりとまとめており、長い余韻に繋がっている。いや、美味しい。
最後に、ファインヘルプのワインも飲みたくなり、”von Schiefer”のファインヘルプを頂いた。あー、なるほど。確かにファインヘルプで甘さを感じるが、溶け込んだ酸が上手く調和してすっきりと飲める。この爽快感は、クリアでマイルドなワイン作りの賜物に違いない。
それにしても、Florianさんのワインのなんと優しいことか。温暖化が進む中、マイルドなワイン作りを目指すのは大変だと思うが、そのピュアで透明感のある優しい味わいは、とても大きな価値のあるものだ。おじいちゃんの代からコツコツと築き上げてきたブドウ栽培とワイン作りの技が、Florianさんの情熱とガシッと結びついているんだろうなと思う。いや、この継承の力、本当に素晴らしい!
試飲したワイン
2022 Kröber’s Riesling trocken
2021 “von Schiefer” Riesling trocken
2022 Steinig Riesling trocken
2021 Uhlen Riesling Blaufüßer Lay trocken
2022 Uhlen Riesling Laubach trocken
2020 Uhlen Riesling Roth Lay trocken
2022 “von Schiefer” Riesling feinherb
畑面積:7ha
生産量:48,000本/年
上級畑:Winninger Brückstück、Winninger Hamm、Winninger Röttgen、Winninger Uhlen
土壌:WB/シルト質粘板岩・砂岩・軽石、WH/粘板岩・風化粘板岩・青色粘板岩、WR/砂質粘板岩・シルト質粘板岩・レス・石英、WU/粘板岩・青色粘板岩・灰色粘板岩・赤色粘板岩、一部石灰岩
栽培種:85%リースリング、8%ヴァイスブルグンダー、5%シュペートブルグンダー、2%ドルンフェルダー