Weingut Dr. Melsheimer

Frau Kristin Rüschhoff von Weingut Dr. Melsheimer
Kristinさん

2023年8月17日(木)
モーゼル川右岸を走る国道53号線を下流方向に車を走らせ、トラーベン=トラーバッハに向かう。 トラーベン=トラーバッハは、モーゼル川中流域の美しい町だ。他の街にはない華やかさを感じる。それは、モーゼルワインの発展において重要な役割を担ったこの街の歴史によるところが大きい。19世紀の終わりから20世紀の初頭にかけて、この街は、フランスのボルドーに次ぐヨーロッパ第2のワイン交易地だった。当時、100以上のワイン関連会社があり、この地からモーゼル各地のワインがイギリスをはじめとしたヨーロッパ各国に輸出されていった。そんな訳で、裕福になったワイン商人たちがアール・ヌーボー様式やベル・エポック様式の立派な建物を建て、それが今でも綺麗に街並みを彩っている。モーゼル各地のワイナリーを回っていると、「おじいちゃんの代までは樽ワインをトラーベン=トラーバッハに持っていってたんだけど、お父さんの代になって自分の家で瓶詰めを始めたんだ」なんて話をよく聞くが、今でも沢山の船着場があり、多くの貨物船や観光船が停泊するその風景は、往時の面影を残している。ちなみに、元々はモーゼル川を挟んで左岸がトラーベン市、右岸がトラーバッハ市であったが、今日の目的地Weingut Dr. Melsheimerは、右岸のトラーバッハ側にある。地図を見ると、街に入ってすぐのロータリーを右折したらすぐにあるはずだ。果たして、右折してすぐの建物に掲げられた看板に「Weingut Dr. Melsheimer」の文字。敷地内へ侵入する道に車を滑り込ませた。車を降り、ワイナリーの建物を眺めると、いや、立派。塔を伴う白壁の建物と石材で組み上げられた建物が組み合わされた特徴的なつくり。19世紀初頭に、かの有名なシンケルのお弟子さんが建てたものとのこと。ワイナリーの正面にまわり、石造りの建物のガラス張りの入り口から入っていくと、その奥はレストラン。声をかけると、お約束をしたKristin Rüschhoffさんが笑顔で現れた。

Weingut Dr. Melsheimer

Weingut Dr. Melsheimerは、トラーベン=トラーバッハのワイン産業の発展に深く関わる歴史を持つ。ワイン交易地として栄えていた19世紀終わり頃、Graff家のNapoleonとOskarの兄弟は、モーゼル川沿いに沢山の醸造所やワイン貯蔵庫を建設し、NapoleonとOskarのワイン帝国と呼ばれていた。Oskarさんが亡くなった後、その未亡人Maria Graffさんと結婚したのがMax Melsheimerさん。Graff家のワイン関連会社は事実上Maxさんに引き継がれた。そのMaxさんは子供がいなかったこともあり、1910年に甥っ子のFritz Melsheimerさんを相続人に指名した。Fritzさんは法学を修め、司法官を務めていたが、職を辞し、1920年にトラーベン=トラーバッハに移ってきた。その際、MaxさんからWeingut Oskar Graffを引き継いだとのこと。その後MaxさんやGraff家の相続人が亡くなり、1930年、Melsheimer家とGraff家の全財産はFritzさんに引き継がれた。一方、Fritzさんはワイナリーは所有し続けたものの、専ら政治家として活躍した。トラーベン=トラーバッハの市議会議員等を歴任し、短期間だが市長も務めた。1950年には、トラーベン=トラーバッハの名誉市民になっている。ワイナリーの名称であるWeingut Dr. Melsheimerは、博士号を持っていたFritzさんに因んで名付けられたとのこと。現在の当主であるFritz Horst Melsheimerさんは、Fritzさんの孫にあたる。複数の大学で経営学を学んだ後、ハンブルクを拠点に多くの企業で経営に参画してきた。2011年にはハンブルク商工会議所会頭に、2013年にはドイツ商工会議所副会頭に選出されるなど、経営の超プロフェッショナルだ。ワイナリーの管理は、ワイナリー併設のレストランDie Graifenを経営するMatthias Deckerさんが担っている。そして、ケラーマイスターとして醸造に責任を持つのは、10kmほど離れたレイル村にあるトップワイナリーWeingut Melsheimerの当主でありケラーマイスターのThorsten Melsheimerさんだ。このように、Weingut Dr. Melsheimerの経営形態は、ドイツでは一般的な家族経営のワイナリーとは全く異なるが、ワイナリーの灯を途絶えさせることなく、しっかりと歴史を刻んできている。

Weingut Dr. Melsheimer

「ようこそ。何から飲む?」と、Kristinさんがワインリストを見せてくれる。Thorstenさんの造るゼクトはいつも高評価だと知っていたので、迷わずゼクトをお願いした。うん、柑橘系の良い香り。口に含むと、エクストラ・トロッケンの柔らかな甘みを伴う果実味が何とも美味しい。細かな気泡とともに口内に優しく拡がる。いや、上質。
さて、ワインリストを良く見ると、グーツワインの他は、畑の場所により、West(西)、Süd-West(南西)、Süd(南)、Süd-Ost(南東)と名付けられた分かり易いラインナップ。トロッケン(辛口)は全てSüd-Ost、ファインヘルプ(中辛)はWestとSüd-West、フルッヒトズース(甘口)は全てSüdと、味わいも畑によって決まっているように見え面白い。
まずは辛口を制せねばと、ヴァイスブルグンダーをいただいた。おー、フレッシュ!レモンやライムの香りに木のニュアンス。とても優しい味わい。これ、ずっと飲んでられそうだ。「これは今年瓶詰めしたばかりだからね」とKristinさん。そしてレストラン名に因んだGraifen Fabelweinという名のリースリング。うん、柑橘系の良い香り。そして果実味豊か。アルコール度数が低めということもあるが、繊細さと相まって優しい味わいだ。この優しさというか、柔らかい感じがDr. Melsheimerの特徴かなあと思う。次はSüd-Ost。さまざまなヴィンテージが揃っているが、アルコール度数が最も低い2017年のものをお願いした。トロッケンでアルコール度数9.0%って、なかなか無い。あぁ、これも優しい。柑橘系の香りにハーブのニュアンス。しっかりとした果実味。酸味が尾を引く長い余韻がスッキリと心地よい。「これは残糖分が5グラムで酸は8グラムなのよ」とKristinさんが教えてくれる。

Weingut Dr. Melsheimer
1988年のワインから慎重に抜かれたコルクが右隅に

そしてファインヘルプ。まずはSüd-Westから。これも複数のヴィンテージがあるが、Kristinさんは、「これは残糖分が少なめでトロッケンに近いので好きだと思うわよ」と、2016年のものをグラスに注いでくれた。あー、確かに。そんなに甘くないが、濃縮された果実味がとってもフルーティー。溶け込んだ酸と相まってスッキリと飲める。「さっきのSüd-OstとこのSüd-Westは、トラーバッハー・シュロッスベルクという畑の区画なのよ。グレーヴェンブルク城跡の下にあって、すぐそこなのでぜひ行ってみて。このSüd-Westのところは青色粘板岩よ」
そして、次に注いでくれたのはWest。「これはトラーベナー・ヴュルツガルテンという畑の区画で、樹齢50年以上のリースリングがあるのよ」おー、樹齢50年と言えば、立派なアルテ・レーベンだ。飲んでみると、これ正にファインヘルプ。しかし、酸が強くてスッキリしている。聞いてみると、酸は9グラムとのこと。そして、9.0%というアルコール度数とも相まって優しい味わい。いや、美味い。

Weingut Dr. Melsheimer

「折角なので、古いワインも飲んでみない?うちのセラーには色々あるのよ」と、”宝の蔵”と書かれたワインリストを見せてくれる。色々考えて、1988年のリースリングアウスレーゼのハルプトロッケンをお願いした。おー、見るからに古そう。コルクも相当に水分を含んでる感じ。Kristinさんは、慎重に抜栓してグラスに注いでくれた。熟成が進んでいるのが見た目にも分かるアンバーがかったイエロー。砂糖で煮詰めたような果実の香りに吟醸香。ワックスの香り。いや、年季が入っている。飲んでみると、熟成が進んだ複雑な味わい。これはこれで美味しい。単純に、35年経ってもしっかりと飲めるというのは素晴らしいなと思う。
トラーベン=トラーバッハのワインの歴史を背負うこのワイナリー、当主のFritzさんのリースリングへの思いもあり、しっかりと運営が継続されている。というより、むしろ発展している。特に、Thorstenさんを醸造責任者に招いたのが大きいと思う。2009年には、Thorstenさんの指導のもと有機農法に転換している。Fritzさんをはじめ、関係者の思いと力が結集して前進するこのワイナリー、本当に興味深い。これからもしっかりフォローさせていただきます!

Weingut Dr. Melsheimer

試飲したワイン
2020 Dr. Melsheimer Privat Riesling Sekt extra trocken
2022 Weißburgunder trocken
2020 Graifen Fabelwein Riesling trocken
2017 Süd-Ost Riesling trocken
2016 Süd-West Riesling feinherb
2017 West Riesling Kabinett feinherb
1988 Graacher Himmelreich Riesling Auslese halbtrocken

畑面積:2ha
生産量:7,500本/年
上級畑:Trabener Würzgarten、Trarbacher Schloßberg、Enkircher Steffensberg
土壌:TW/青色粘板岩・灰色粘板岩・レス、TS/灰色粘板岩・青色粘板岩、ES/粘板岩
栽培種:95%リースリング、5%ヴァイスブルグンダー
BIO

ドクター・メルスハイマー醸造所ホームページ



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