Weingut Peter Kriechel
2023年8月14日(月)
マインツから、まずはライン川沿いに西に進み、そして北へ。アールまで1時間半ほどの道のりだ。アウトバーンのドライブは快適。いや、4年ぶりの仕入れの旅、いよいよ始まったなあ。でも、ドイツの高速道路は厄介だ。次の分岐を右に行けばアール、のはずだったが、Googleマップの位置情報がズレていて分岐を通過…。あちゃー!4年前に何度も犯したミスをまたやってしまった。無情にも道路標識はこの先はケルン/ボンと言っている。とにかく次の出口で高速を降りて立て直すしかない。そんなことをやりながら、最後は一般道でなんとかアールヴァイラーの街にたどり着いた。既に約束の時間を20分過ぎているが、めげずに車を進める。旧市街を囲む壁を横目で見ながら通り過ぎ、ヴァルポルツハイマー通りに入る。と、程なく右手にKriechelと書かれた旗が見えてきた。すぐに建物が確認でき、敷地内に車を滑り込ませる。時間に遅れてるし早く行かなきゃと、慌てて車を降りる。が、入り口が分からない。建物の奥に行って作業をしている人に声をかけてみると、「ここは裏だから表から入って」との答え。表に回ってみると、ああ、これ、あまりにも大きくて窓もないし扉と思わなかったが、確かに扉だわ。取っ手を引き中に入ると、お約束をしたGrohsさんが笑顔で迎えてくれた。
Weingut Peter Kriechelは1952年創業。家族での葡萄栽培は少なくとも1680年から続けていたというから、Kriechel家は正にワインと共に歴史を歩んできたと言える。自然に寄り添ったワイナリーの礎を築いたのは、創業者のPeterさん。最初にブドウを植えた時の栽培面積は1.5haだった。1969年、Peterさんは2人の息子HermannさんとErnstさんに3haになった畑と事業を引き継ぐ。2人は、自然なワイン作りを一層突き詰めるとともに、新しい葡萄栽培技術と醸造技術を導入し事業を大きく拡大。場所も、マリエンタールから現在のアールヴァイラーに移転した。2003年、20haとなったワイナリーは、ワイン経営やブドウ栽培技術を学んだ3代目のMarkusさん、Michaelさん、Gerdさんが、2代目のErnstさんと共に事業を行う体制となった。2013年からは、Markusさんが弟のPeter Jr.さんに経営の仕事を継承し、現在に至っている。葡萄の栽培面積は28ha。今や、アールで最も大きな家族経営のワイナリーだ。いや、それにしても家族の力は強い。子供が親の仕事を継ぐのって、親の心子知らずではないが、なんだかんだ言ってうまく行かないことが多い。でも、うまく行けば、小さい頃から親の背中を見ているせいか、ものすごい力を発揮する。このワイナリーは、その家族の力を目一杯発揮している。
「ようこそ。何を飲みたい?」とGrohsさん。”赤ワインの楽園”と呼ばれるアールに来たからには、やっぱ赤だよなと思いつつ、白も気になる。するとGrohsさんは、「オッケー。ではこの白ワイン飲んでみない?」と、シュペートブルグンダーのブラン・ド・ノワールを出してくれた。うーん、香り豊か。チェリーのような、シュペートブルグンダーを感じさせる果実の香りがする。飲んでみると滑らかな口当たりでしっかりとした味わい。正に泡のないシャンパンのよう。これ、なかなかいける。次はグラウブルグンダーとシャルドネを一緒に醸造したワイン。これも果実の香りが豊か。リンゴ、洋梨、メロン。ファインヘルプ(中辛口)の甘みが適度な酸味と相まって、とても美味しい。
「これが好きなら、こっちも飲んでみて」と、今度はJubilusという名の白ワイン。あ、これも香りが立つ。口に含むと、とてもフレッシュで、フルーティー。「これはヴュルツァー、ソラリス、リーヴァナー、ケルナーの4つのブドウから作ったワインのキュベなのよ」とGrohsさんが教えてくれる。軽やかなのに重層的だと感じたのはそのためだ。ちなみに、このJubilus、2002年にワイナリーが50周年を迎えた記念にリリースされたのが始まりで、以来人気を博しているとのこと。Grohsさんは、折角なのでと、ヴァイスブルグンダーとグラウブルグンダーも薦めてくれる。すごいなー、このブルグンダー攻め。さすが、畑の90%以上がブルゴーニュ品種というのは伊達ではない。まずはヴァイスブルグンダーから。これもフレッシュ&フルーティー。柑橘系の香りやリンゴの香りがする。辛口なれど、優しい口当たりで、どんどん飲んでしまいそうなワインだ。次にグラウブルグンダー。うん、これも香りが立つ。柑橘系、リンゴ、桃。飲んでみると、柔らかい口当たり。そして、力強さを感じる濃縮された果実味。いや、美味い。赤の楽園に来て、こんなに白ワインを飲むとは思わなかった。しかもリースリング以外というところがアールっぽくて良い。
「そろそろ赤だと思うけど、折角なのでロゼも飲んでみる?これも好きだと思うので」とGrohsさん。これはもう、頷くしかない。例のJubilusの名を冠したロゼ。ああ、ロゼになると、当たり前だけど随分シュペートブルグンダーの香りが出てきてる。ベリーやチェリーといった赤い果実の香りがする。飲んでみると、しっかりとした果実味に程よい酸味が相まって何とも美味しい。余韻のミネラル感もいい感じ。良く味わうと深みも感じらる。
そして、いよいよ赤。まずはベーシックなところから。Grohsさんが出してくれたのはフリューブルグンダー。お、来たなーと嬉しくなる。原産地フランスではほぼ無くなってしまったこのブドウ、ドイツでは増えてきている。そして、Weingut Peter Kriechelは、約4haの畑でフリューブルグンダーを栽培しており、世界最大級のフリューブルグンダー生産者でもある。うーん、良い香り。ブルーベリー、カシス、そして木の香り。スパイスのニュアンス。飲んでみると、程よいタンニンを伴った優しい果実味が口に拡がる。次はシュペートブルグンダーのS。これもチェリーやベリー系の香り豊か。飲んでみると、香りのとおりのフルーティーな味わい。と同時に、しっかりとした骨格が感じられ、力強さもある。口当たりは柔らかく、全体としてとてもバランスが良い。いや、美味い。
「次はプレミアムクラスに行くわよ。フリューブルグンダーとシュペートブルグンダーのBをどうぞ。BはバリックのBよ」と、フリューブルグンダーを注いでくれる。うん、果実の香りが豊か。これにバリックからくる木の香りが調和している。飲んでみると優しい口当たり。熟成した果実味が力強い。「このバリックはアール産なのよ。1年半樽で熟成させているの」えっ、アール産なんだ。普通バリックといえばフレンチオークだ。アールという地域にこだわるワイン造り、とても良いと思う。次はシュペートブルグンダー。うーん、良い香り。ブルーベリーやカシスの香りにバリックからくるスモーキーな香り。口に含むと、これもまた濃厚な味わいで深みもある。そして長い余韻。
「さらに上のクラス、ノイエンアーラーゾンネンベルクの畑のブドウから造ったワインをどうぞ。リストにはシュペートブルグンダーしか載せてないけれど、フリューブルグンダーもあるので飲んでみて」と、フリューブルグンダーを注いでくれる。いや、これも豊かな果実の香りにバリックのトースト香。まろやかな口当たりに濃厚な果実味。長い余韻にミネラル感も感じる。そしてシュペートブルグンダー。うん、良い香り。ブラックベリーやブラックチェリーといった力強い果実の香りに木やタバコ、トーストの香り。そしてスパイス。こちらも濃厚な果実味で力強いが、まろやかな口当たりもありエレガントな味わい。深みも感じる。そして長い余韻にミネラル感も。いや、本当に美味しい。
それにしても沢山飲んだな。これだけ飲んで分かったのは、Weingut Peter Kriechelのワインは、白も赤もブドウの香りと味わいがとても良く出ていることだ。これは、ビオディナミの手法も取り入れた自然なワイン造りの賜物なんだろうなと思う。おじいちゃんが立ち上げ、家族3代でアールで最も大きなワイナリーの一つになったが、自然なワイン造りの哲学は変わることなく脈々と受け継がれ、むしろ進化している。これ、とても難しいことだけど、やっぱり家族の力が強いから成し遂げることが出来ているんだろうな。2021年には甚大な被害をもたらした洪水があったが、気候変動など、ワイナリーを取り巻く課題は多い。Kriechel家の人々なら、きっとその家族力であらゆる課題に立ち向かい、ワイナリーを、そしてアールのワイン産業をますます発展させてくれるに違いない。ホント、確信しました。
試飲したワイン
2021 Blanc de Noir Spätburgunder trocken
2022 Ahr Grauburgunder & Chardonnay feinherb
2022 Jubilus blanc halbtrocken
2021 Ahr-Weißburgunder trocken
2022 Ahr-Grauburgunder trocken
2021 Jubilus rosé Spätburgunder trocken
2021 Jubilus Frühburgunder trocken
2021 Ahr-Spätburgunder S trocken
2021 Ahr-Frühburgunder B trocken
2020 Ahr-Spätburgunder B trocken
2020 Neuenahrer Sonnenberg Frühburgunder -R- trocken
2020 Neuenahrer Sonnenberg Spätburgunder -R- trocken
畑面積:28ha
生産量:210,000本/年
上級畑:Neuenahrer Sonnenberg、Walporzheimer Kräuterberg、Ahrweiler Rosenthal、Marienthaler Rosenberg
土壌:風化層を含む粘板岩、レス(黄土)、レーム、灰珪岩
栽培種:55%シュペートブルグンダー、15%フリューブルグンダー、7.5%グラウブルグンダー、7.5%ヴァイスブルグンダー、15%その他(リースリング、ピノ・ムニエ、メルロー、シャルドネ等)