Weingut Knipser

Marionさん。お洒落!

2019年9月11日(水)
国道271号線をひたすら南下。プファルツ最北端のボッケンハイムから、この道は全長85kmのドイツワイン街道となる。ボッケンハイムから5kmほど南下したところでドイツワイン街道を離れ、東に5kmほど進むとラウマースハイムだ。人口900人ちょっとの小さな村だが、ワイン造りの歴史は古い。764年の文献に、既にこの地のワイン造りのことが記されている。今でも、優れたワインを生産する村として良く知られる。
村のメインストリート、ハウプトシュトラッセを進む。木組みの可愛らしい家が散見され、いい感じ。市庁舎の前を通り過ぎると、すぐにクニプサー醸造所の門と建物が見えた。門柱に掲げられたVDPのマークですぐに分かった。門の前のスペースに車を停め、敷地に入る。年季が入った建物には蔦が絡まりなかなかの趣。蔦に囲まれた壁には、Weingut Knipserの文字。その右側奥に、出窓が付いた赤い屋根に白い壁の建物。上部が丸いアーチとなった綺麗な木枠にガラスが嵌め込まれた大きな扉があり、どうやらそこが入り口らしい。中に入ると、そこは広々とした試飲スペース。奥のカウンターに、カッコいいショートヘアの女性がいる。声をかけると、今日のお約束をしたMarionさんだった。
Knipser家は、1876年にラウマースハイムで農業経営を開始。ブドウ以外の作物も栽培し、ワインは樽で出荷していた。1948年、Knipser家に大きな転機が訪れる。当時の当主Heinzさんが、ワインを自ら瓶詰めし直接顧客に販売し始めたのだ。この地域で最初のワイン生産者の一人となった。そして、Heinzさんの息子Wernerさんは、1980年代はじめに経営を完全にワイン造り一本に絞った。Wernerさんは、弟のVolkerさんとともに品質向上に邁進。バリックでの醸造を積極的に取り入れるとともに、赤ワインの比率を高めた。またメルローやカベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネといった国際品種も積極的に栽培。新しい取り組みも、飽くなき品質の追求により自分のものにしていったKnipser兄弟のワインは高い評価を受けるようになり、1993年にはVDPのメンバーに迎えられた。2005年、Wernerさんの長男Stephanさんが経営に加わり、現在は、Wernerさん、Volkerさん、Stephanさんの3人が当主を務めている。

Familienwappen von Knipser
Knipser家の起源は南チロル。
16世紀にフェルディナンド大公
から授与された紋章が
現在も使用されている。

「よく来てくれたわね。お好みは?」と、Marionさんはカウンターの奥からワインリストを見せてくれる。まず、その種類の多さに目を見張る。リースリングのみならずブルグンダー種があるのはプファルツの土地柄だろう。これに加え、ソーヴィニヨン・ブランやシャルドネ、ジルヴァナーにゲヴュルツトラミナーも。さらには、一時は絶滅が危惧されたドイツの土着品種、ゲルバー・オルレアンスなんてのもある。赤品種もシュペートブルグンダーに加え、メルロー、カベソー、シラー、ドルンフェルダー、それにサン・ローランなどが並ぶ。いやいや、こりゃすごいなと思いつつ、基本のリースリングをお願いする。
Marionさんが注いでくれたのは、地元の畑、Kapellenbergのリースリングトロッケン。あー、これ良い果実味。フレッシュだけど繊細さもある。ハーブの香りが特徴的。
「こちらも試してみて」と、今度はKalkmergel(石灰質泥灰岩)と名付けられたリースリング。あっ、これはまた違った味わい。口当たりが柔らかく豊かな果実味。より辛口で骨格があり、縦に伸びる酸が心地良い。後味にミネラル感を強く感じる。
「このあたりは石灰岩を多く含む畑が多いの。中新世の頃のサンゴ礁由来のもので、このワインは、石灰質の畑のキュベなのよ」
なるほどー。このミネラル感は海由来なのかと思う。
次はシャルドネとヴァイスブルグンダーのキュベ。いや、面白い取り合わせ。まず、トロピカルな果実系の香りに驚いた。甘さも感じる豊かな香りだ。ハーブのニュアンスも感じられる。飲んでみると、柔らかい口当たりにフレッシュな果実味。口に含むと特徴的なスパイシーさがあり、次に苦味が来る。これって、シャルドネの辛さとブルグンダーの苦味かなと思う。
「Knipserではこの組み合わせで長年ワインを造っているの。実は、このシャルドネとヴァイスブルグンダーはMischsatz(ミッシュザッツ。混植栽培)なのよ。同じ畑で栽培されていて、一緒に収穫、一緒に圧搾しているので、すごく良く調和しているの」
種類が違うと成熟度などが違ってきて難しいのではと思ったが、ミッシュザッツだと、なぜか同じように成熟するとのこと。いや、自然って面白い。ちなみに、比率はシャルドネ63%、ヴァイスブルグンダー37%だそうだ。
次のグラウブルグンダーは、明らかにピンクがかっていて、見た目にグリだなって感じ。これも香りが強い。洋ナシやパッションフルーツのような黄色い果実の香り。柔らかい口当たりの後に、スパイシーな味わい。繊細さが感じられる。どうやら、この柔らかさと繊細さがKnipserらしさかなと思う。
次に赤ワインをお願いする。まずはブラウアー・シュペートブルグンダーのトロッケン。ブラウアーと付くが、シュペートブルグンダーだ。イチゴ、ラズベリー、チェリーの香り。コーヒーのような香りも。飲んでみると素直な果実味。滑らかなタンニンが心地よい。豊かでしっかりとしているが、軽い味わいでどんどん飲めてしまいそうだ。
「シュペートブルグンダーもKalkmergelがあるのよ」と、Marionさんは次のシュペートブルグンダーを注いでくれる。おー、熟成を感じさせるいい香り。チェリーなどの果実の香りにバリックからくる香りが程よく調和している。それに紅茶や土のニュアンス。飲んでみる。いや、柔らかい。優しい感じだが、力強い果実味。骨格がある感じ。それに酸がいい感じで溶け込んでいる。そして、後味に海のミネラル感。これも石灰質土壌のワインのキュベだが、大部分は最上級畑のGroßkarlbacher Burgwegからのものだそうだ。急な南向き斜面で、地質的にもブルゴーニュを思わせる畑とのこと。
最後にメルローとカベソーのキュベ。うん、想像通りの力強さ。カシスやベリー系の香りにロースト香。熟した果実味にタンニンが溶け込んでいる。いや、肉喰いたい。
ふと周りを見ると、最初は自分たちだけだったのに、いつの間にかお客さんが増えている。さすがに人気の醸造所だ。何だかMarionさんも忙しくなってきた。いろんなワインを頂いて満足感もあったので、お礼を言ってお別れをした。
ところで、VINUM2019と2020によれば、Knipserでは2018年から2019年にかけてケラーの体制が刷新された。WernerさんはケラーをStephanさんに任せるようになり、また、長年ケラーで働いていた2人、Sven OhlingerさんとPhilipp Seegerさんが独立し、SOPS醸造所を立ち上げたとのこと。そして、ケラーマイスタリンとして、新しくAmrei Pelzerさんが加入。こりゃ、まさしく世代交代。Stephanさんと若いAmreiさんがKnipserの味をどのように引き継いでいくのか、楽しみ楽しみ。

Weingut Knipser

試飲したワイン
2018 Laumersheimer Kapellenberg Riesling trocken
2017 Kalkmergel Riesling trocken
2018 Chardonnay & Weißburgunder trocken
2018 Grauburgunder trocken
2015 Blauer Spätburgunder trocken
2014 Kalkmergel Spätburgunder trocken
2013 Merlot & Cabernet Sauvignon

畑面積:80ha
生産量:500,000本/年
上級畑:Laumersheimer Steinbuckel、Laumersheimer Kirschgarten、Großkarlbacher Burgweg、Dirmsteiner Mandelpfad
土壌:LS/石灰岩・レス(黄土)、LK/レス(黄土)と石灰質泥灰岩を含む石灰岩層、GB/石灰岩・石灰質泥灰岩・レス(黄土)、DM/石灰岩・レス(黄土)
栽培種:28%シュペートブルグンダー、20%リースリング、9%メルロー、8%シャルドネ、7%カベルネ・ソーヴィニヨン、6%ドルンフェルダー、22%その他

クニプサー醸造所ホームページ

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