Sekthaus Raumland
2019年9月11日(水)
マインツを出発し、ひたすら南下。時折街を通り過ぎるが、道路の両側はほぼほぼ耕作地。「千の丘陵地」と呼ばれるラインヘッセンの地は、遠くまで緩やかな起伏が続いている。目指すフレアスハイム=ダルスハイムの街が近くなってきた。耕作地はいつの間にかブドウ畑に変わる。その街にあるSekthaus Raumlandは、その名の通りゼクト専門のワイナリー。実は、ドイツは世界最大のスパークリングワイン消費国で、世界の5分の1がこの国で飲まれている。そんな国で称賛を受け続けるRaumlandに、今回の旅では是非立ち寄りたいと思っていた。
地図を見ると、Raumlandは街を南北に貫く国道271号沿いにある。この辺りだよなとウロウロするが、見当たらない…。そこには、広い空き地に工場というか、作業場らしき大きな建物。車を降り、なんだかおかしいなと思いつつ、敷地に入っていく。建物に沿って歩いていくが、人の気配もない。と、話をしている女性2人が見えた。声をかけようと思ったら先方もこちらに気付き、「あら、あなたたち、こっちじゃないのよ!」との声。声の主は、今日のお約束をしたAmrei Sophieさんだった。我々は、裏から入ってしまっていたようだ。
Sekthaus Raumlandは、当主のVolkerさんが1984年に創業した。Volkerさんは、ガイゼンハイムで学んでいた時、他の学生と移動式のゼクト醸造器を開発したとのことだから、ゼクトに対する思いは強かったに違いない。当初は、他のワイナリーのためにゼクトを造っていた。1986年、購入したブドウを用いて初めて自社のゼクトをリリース。1990年、Volkerさんは奥様のHeide-Roseさんと、フレアスハイム=ダルスハイムに4haのブドウ畑を持つ綺麗なヴィラを購入し、この地に拠点を構えた。その翌年から自分のブドウを用いたゼクトを造り続けているVolkerさんの畑は、今では9.9ha。シャンパーニュをすごく研究したというVolkerさんのこだわりは、良いベースワインを造ること。自然にこだわるブドウ栽培は年々深化し、2002年にはビオ認証を受けた。醸造にも細心の注意を払う。ブドウの圧搾は優しくし、果汁は選別して使う。品種によりマロラクティック発酵。ドイツワイン法では、原産地呼称ゼクトは、瓶内2次発酵で最低9ヶ月寝かせる必要があるが、Volkerさんは2年から12年の熟成期間を取っている。ワインが酵母と共に過ごす時間が長いことが、高品質につながるとの考えだ。Volkerさんのモットーは、良いゼクト造りのために、伝統的なことから新しいことまで、とにかく出来ることを積み重ねるということ。この探求の結晶がドイツ最高のゼクトとなり、世に送り出されている。
Amrei Sophieさんに案内され、試飲・販売スペースがある建屋にやってきた(裏からだけど…)。2016年に新設されたとのことで、長方形のモダンな外観。中に入ると、そこもモダンでシャープな趣き。白い壁が基調で、直線的なデザインの調度類やバーカウンターが配置されている。
「ようこそ。今日は、うちのゼクトをしっかりと味わってね」
バーカウンターの後ろに回ったAmrei Sophieさんが最初に注いでくれたのは、リースリングのゼクト。細かな気泡が幾重にも連なるグラスを見ると、なんだか体温が上がる。口に含む。いや、フレッシュ!滑らかな舌触りが心地良い。しっかりと熟成された柔らかさを感じる。フルーティで香りも強く、やはりリースリングというブドウはアロマティックだなと再認識する。
次に、VolkerさんとHeide-Roseさんの2人の娘さんの名前をそれぞれ冠した2つのゼクト。マリー・ルイーズはピノ・ノワールのブラン・ド・ノワール。フルーティでパワフル。やはり上品な滑らかさを持つ。香りも含め、特徴的なスパイシーさがある。また、カタリーナはピノ・ノワールとピノ・ムニエのキュベ。リンゴや桃の香り。それにハーブとイーストのニュアンス。複雑さを感じさせる味わい。辛口のキリッとした味わいが美味しい。
「次はロゼをどうぞ。ピノ・ノワール100%でセニエ法で造っているのよ」と注いでくれるゼクトは、サーモンピンクでとても綺麗。鼻に近づけると、赤いベリー系の香りにミネラルのニュアンス。いや、これとても良い香り。そして、やはり柔らかい口当たりに熟した果実味。気泡の刺激が心地良い。
「これは2次発酵で6年熟成しているの。深い味わいと柔らかさにはこの熟成が大事なのよ」とAmrei Sophieさん。だよねーっと頷く。
「この後のプレスティッジシリーズのゼクトは、良い果汁を使っているの。Raumlandでは果汁全体の65%を使うのだけど、絞って出てくる最初の5%、その後の50%、最後の10%で分けているの。プレスティッジ以上の上級ゼクトには、50%の部分の中でも良い果汁を使い、あとはベーシックな物に使うのよ」
なるほどー。いわゆる一番搾り果汁って訳だ。心して飲まねば。
まず、ヴァイスブルグンダーのブラン・ド・ブラン。いや、これ複雑な香り。甘味を含んだ小麦というかパンの香り。火打石のような香りもする。ナッツのようなニュアンスも。2次発酵で9年熟成とのこと。こりゃ澱の上ですごく良い熟成をしたんだなと思う。味わいはフルーティでエレガント。とても優しい感じ。塩味や苦味といったミネラル感を感じる。
次のシャルドネは、締まった辛口の味わいでフレッシュ。熟した桃やメロンの香りに、こちらも酵母由来の香りがする。切れ味が良いけれども、やはり柔らかな舌触りで上品さも感じる。いや、本当に美味しい。
そして最後は、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、シャルドネのキュベ。いや、これ、何というか、酵母由来のパンのような香りだけど、多層的というか、複雑な香りがする。それを甘い柑橘系の香りが優しく包み込んでいる。ナッツのような香りも。うーん、幸せ。口当たりはとても優しく、繊細な気泡が小気味良く口内で弾ける。味わいは力強く、桃やチェリーのような果実味。そして、塩味や苦味といったミネラル感が余韻に残る。後日談だが、このゼクト、VINUM誌の2020年のベストゼクトに選ばれるとともに、ドイツワイン協会表彰でゼクト部門1位となった。
すっかり良い気分でいると、ジーンズに明るいグレーのスウェット、それにブーツを履いたVolkerさんが入ってきた。一目でわかった。ブドウの収穫作業中だ。人の気配がないと思っていたが、みんな畑に出ていたんだと理解する。
「楽しんでる?よく来たね!しっかり造っているので良く味わってね。ところで、うちのケラーマイスターは日本人なんだよ。日本とは縁があるんだ」とVolkerさん。確かにVINUMを良く見ると、Kaise Kazuyukiとある。この美味しいゼクトに日本から来たKazuyukiさんの手が加わっていると思うと、何だか嬉しくなる。短い時間で挨拶しかしなかったけれど、Volkerさんにお会いできて良かった良かった。Amrei Sophieさんにお礼を言って、今度は表から出て行った。
さて、日本に帰って来た後の12月、久しぶりにRaumlandのホームページを見て驚いた。なんと、Sekthaus RaumlandがVDPメンバーになると書いてある!VDP史上初のゼクト専業会員とのこと。文面から、大きな喜びが伝わってくる。1984年の創業から1代でここまできたVolkerさん一家、ますますの発展をお祈り申し上げます!
試飲したゼクト
2013 Riesling Brut
2013 Cuvée Marie-Luise Brut
2013 Cuvée Katharina Brut Nature
2012 Rosé Prestige Brut
2010 Blanc de Blancs Prestige Brut
2011 Chardonnay Prestige Brut
2010 X. Triumvirat Grande Cuvée Brut
畑面積:9.9ha
生産量:80,000本/年
上級畑:Dalsheimer Bürgel、Hohen-Sülzer Kirchenstück、Bockenheimer Schlossberg、Mölsheimer Silberberg
土壌:DB/石灰岩質の茶色の粘土(テラ・フスカ)、HK/貝殻や珪藻類由来の石灰岩、BS/レス(黄土)・少量の石灰岩、MS/泥灰岩や石灰岩を含むレーム
栽培種:39%シャルドネ、39%シュペートブルグンダー、10%リースリング、9%ヴァイスブルグンダー、3%ピノ・ムニエ
BIO