Weingut Querbach
2019年9月10日(火)
エストリッヒの街を丘の方に向かう。約束の時間は17時だったが、時計の針は17時25分。大遅刻…。しかもQuerbachの営業時間は17時半まで。自分のタイムマネージメントの悪さを恨みつつもアクセルを踏む。街を抜けると、そこは銘醸畑Oestricher Lenchen。この畑地帯に入ってすぐのところにあるQuerbachの正面に車を滑り込ませたのは、17時30分ジャストだった。大きなケラー兼作業所の建物にゲストハウス兼事務所の建物が並び立っている。バタバタと階段を駆け上がり、事務所に飛び込む。すると、少々薄暗い部屋の奥の方に、当主のPeterさんがいた。良かった!待っていてくれた。何だか愛想がない感じだったが、仕方がない。挨拶をして、ひたすら遅れたことをお詫びした。
Querbachは1650年創業。いや、古い。領主が変わったり、ナポレオンに征服されたり、ナッサウ公国になったり、普墺戦争や普仏戦争を経てドイツ帝国になったり、さらには2度の世界大戦など、よくぞここまで続けていただきました。その間、ドイツのワイン産業も興隆と衰退を繰り返してきたが、Querbachは、技術とノウハウを開発・伝承し、高品質ワインを造り続けてきた。
Peterさんのお父さんのWilfriedさんは、ラインガウにおける自然発酵のパイオニアとして知られる。長くお父さんと一緒に働いてきたPeterさんも、その技術を継承し発展させてきた。優しく果汁を絞るとステンレスタンクに静置。温度管理は全く行わず自然発酵させ、その後10数ヶ月、ワインは瓶詰めの直前まで澱の上で熟成される。しかし、この澱の上で長期熟成させるやり方、最初に聞いたときには驚いたが、ファルケンシュタイン、ピーター・ヤコブ・キューン、カール・エアハールトと、昨日から回っているワイナリーはみんな取り入れている。それぞれにやり方は違っているが、美味しいワイン造りの一つのポイントに違いない。ブドウの栽培も、ブドウの木の間にハーブを植えるなど、自然の力を利用している。面白いのは収穫だ。何かと手摘みがもてはやされるが、Peterさんは機械を使う。最初に準備のために手摘みをしたら、あとはさっと機械で収穫。収穫後、最適なタイミングで醸造プロセスに入るためとのこと。いや、これなかなか合理的。そしてステンレスキャップ(王冠)。コルクの影響を避けるため、新たな密封方法を検討していたPeterさんが20年前に開発した。1999年ヴィンテージ以降、Querbachのワインはみんなこれで栓をされている。なんだか、良いワインのために出来ることはなんでもやるって感じで、Peterさんの真摯な姿勢が伝わってくる。
さて、試飲。Peterさんがワインリストを見せてくれる。「んっ!」思わず唸った。辛口リースリングのシリーズが、2001年ものから2017年ものまで、ズラッと揃っている。
「これ、すごいね!こんな昔のワイン置いてるとこってあまりないよね?」
「うちのワインは20年は大丈夫だよ。年を経るごとにワインも変わっていくし、これを楽しめるのは良いでしょ」
うん、良い良い!この長期保存は、ステンレスキャップの効果もあるとのこと。コルクだと20%くらい悪くなるそうだ。
それにしてもどれを飲むか。時間があれば一つの銘柄を複数のヴィンテージで試してみたい。が、遅刻してしまったため、あまり長居出来る感じではない…。話を聞きながら、3本を選んだ。Peterさんがワインを取りに行っている間に部屋を見回してみると、Querbachの記事が大きく掲載されている雑誌がある。ちょっと前のものと思われるが、そこに写っているPeterさんの何と男前なことか!Peterさんが戻ってきた。
「これ、カッコいいね!映画スターかと思ったよ」
何言ってんの!と大きく笑うPeterさん。いや、笑ってくれて良かったよ。遅刻したこともあり、若干打ち解けた感がなかったが、これ以降会話がスムーズになった。
最初は2016年のエディション・リースリングトロッケン。まずピリッとした香辛料のような香りが特徴的。そして、リンゴや桃のような果実の香り。口に含んで見ると、おー!柔らかい。まろやかな口当たりに細かい酸が溶け込んでいる。甘さを伴うしっかりとした果実味の後に、いい感じの苦味を感じる。いや、美味しい。
次に2014年のハルガルテン。これもピリッとした香りがある。香辛料と言うよりハーブか。柑橘系の果実の香りがする。口に含むと、これも柔らかい。そして丸い酸。とても濃厚なフルーティな味わいに苦味も。それにしても、果実味がしっかりとしている。
「エディションもそうだったけど、果実味がとてもハッキリして力強いように感じるんだけど」
「それは栽培から醸造まで、優しく優しく工程を踏んでいるからかな」とPeterさんはニッコリと笑う。いや、確かに全ての工程に努力を積み重ねた結果なんだろうなと思う。そういえば、以前は木樽も使っていたPeterさんだが、試行錯誤の末に全てステンレスに切り替えた。メディアの取材に対し、「むしろ、ステンレスの方が果実の特徴が良く出る。木樽は、なんと言うか、味がボケた感じになる」と答えていた。こんなことも含め、あらゆる努力が一つの味に結実しているんだと思う。
最後に2012年のQ1エストリッヒレンヘン。あー!これ、一層まろやかだな。そして果実味が濃い。ハーブのような香りにリンゴやレモンのような香り。しっかりとした苦味が果実味と相まってなんとも言えない味わい。そして長い余韻。いや、ホント美味しいわ。
「このコクがある苦味とまろやかさは、長い熟成能力からくる。醸造の際の長いスキンコンタクトと、その後の長い澱との接触が重要なんだ」とPeterさん。
ところで、Peterさんは、2014年にVDPを脱会した。VDPが求める味わいの基準が、自身が求めるワインに合わなくなったためとのこと。勇気ある決断だと思う。Peterさんは、ブドウの栽培・管理、醸造、ステンレスキャップなど、伝統をしっかりと継承しつつも、独自の手法によりおのれの目指すワインを真摯に探究している。いや、求道者だなぁ。
最後は笑顔でお別れ(ホント良かったよ)。今度来るときはたっぷり時間をとって、同一銘柄の垂直テイスティングをせねば!
試飲したワイン
2016 Edition Riesling
2014 Hallgarten Riesling
2012 Q1 Oestrich Lenchen
畑面積:10ha
生産量:80,000本/年
上級畑:Oestricher Lenchen、Oestricher Doosberg、Winkeler Hasensprung、Hallgartener Schönhell
土壌:OL/黄土(レス)・珪岩、OD/黄土(レス)・珪岩、WH/黄土(レス)・レーム、HS/黄土(レス)・レーム
栽培種:95%リースリング、5%シュペートブルグンダー